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道連れ [エッセイ]



とある休日、家族三人で自転車に乗り
行き先も決めずにふらふらと走っていた。

嫁さんはしきりに「どこに行くの?」と、繰り返す。

あてなく行くのが良いんじゃないか!価値観の相違だな。
「あのね、一人で行くのならどうぞお好きに。
でもね、ふらふらと急に方向転換するあなたの後ろを
ついて行く身にもなってほしいのだけど!」

それは正論だ。

口喧嘩を織りまぜた夫婦の会話を
ハンドルの前のチャイルドシートに乗る我が息子は
聞いているのか、情操教育。バスを見るたび指を突き立て
「とーとね。」と意味深な言葉を繰り返す。

それでも、やはりふらふらとハンドルは
気の向くまま足のこぐまま、なんとなく角を曲がり路地をゆき
気づくと雑司ヶ谷の鬼子母神に行き当たった。

「あたし、他人事に思えないのよね、、、。」

なにが?鬼子母神が?鬼子母神は自分の子供を育てるために人間の子供を食らっていた。
それを見かねたお釈迦様が彼女の末の子を隠してしまい、嘆き悲しんだ彼女は自らの行いに気付き
お釈迦様に帰依して安産・子育(こやす)の神様になったとさ、、、。っていうところに?

「うーん、わたし前世で鬼だったことがある気がするのよね。」
鬼ですか、、、。それはなんだか、、、切ないね。
「そう、切ないのよ。」


熱心に手を合わせる彼女を遠目に
境内の駄菓子店で梅ジャムとミルクせんべいを買う。

ベンチに腰掛けハトを追い回す息子を眺めていると
向かいのベンチに座る家族連れの足下に
一匹の猫を見つけた。

その猫は遠目からも判るほど薄汚れ、体は骨と皮だけといった感じ。
目ヤニでぐちゃぐちゃになった顔に口からはヨダレが垂れている。
フラフラしながらも、かすれる鳴き声を上げながら
人懐っこく足下にすり寄ろうとしている。

よく見ると首輪をしている。
飼われていたのが捨てられたのか
それとも迷ってしまったのか。

向かいの家族連れは、そのあまりの汚さに顔をしかめて立ち去ってしまった。

しばらく気が抜けたように座り込んで、じっとしていたその猫が。
ふと振り返り僕の方に歩み寄ってきた。
近づいてくるにつれて、ひどい様相がよく見えてくる。
確かに少し触るのも、ためらわれるくらいの姿だ。

「にゃあ。」とかすれる声ですり寄る猫をそっと撫でた。

後から来た嫁さんが、近くの店でエサを買ってきてくれた。
鼻も利かなくなっているのか、置いたエサに気づかず鳴きながら
すり寄る。持ち上げて顔をエサに近づけ、どうにか食べ始めた。

「よく食べなさい。」
声をかける嫁さんと共に神社を後にした。


その夜、寝床でどうしても昼間の猫が頭を離れない。

「そうね、あたしも考えていた。けど、ウチにはいるからね、、、。」

そうなんだよね。前に住んでいたマンションの5階の部屋の玄関に
生後2ヶ月ほどの白黒の子猫が、どうやって来たのか鳴いていた。
すくすくと育ち、今や4歳。女盛りのワガママ盛り。
ちなみにそのマンションは動物禁止。
内緒で飼っていたのだが、息子が生まれて一年目
大家にばれて、すったもんだの挙げ句、部屋を出ることに。
猫一匹、赤子一匹、大人ふたり
父が一人で住む実家に転がり込んだのだった。

「この家であの猫と一緒には、ちょっとキビシいよね、、、。」
だよね。なんとかならないかな。せめて獣医に連れて行くとか。

「その後、どうするの?」
うん、、、、。


翌日、どうしても気になって
せめてエサでも、と仕事の合間に鬼子母神へと。
境内を探すも見つからず、諦めて帰ろうと神社の隣の公園を横切ると
公衆便所の入り口の壁際に、丸まって寝ているあの猫を見つけた。

歩み寄ると、はっとしたように汚れた顔を上げて
ふらふらとこちらに歩いて来た。

その時、初めて気がついたのだ。

その猫はウチにいる猫と
同じ柄の白黒だった。



「ねえ、やっぱり飼ってみようよ。色々、問題はあるけど
それはやってみてから考えればいいし。あの子、ウチの猫と同じ柄だし
こうゆうの、縁だから。出会っちゃったもんは仕方ないでしょ。」

帰ってくるなり、嫁さんが切り出した。




さらに翌日、再び家族三人自転車で鬼子母神へと。

やはり便所の壁際に丸まる、その猫を抱き上げ
近くの動物病院へと。

できれば、と祈ったが
残念なことに猫エイズに感染している上に
発症、進行中との診断。

どれぐらい生きるのか判らない上に
ウチの猫に感染の危険もあると説明される。
「広い庭とかがあれば、分けて飼うことも出来るんですけどね、、、。」
との獣医の説明にインスピレーションを感じ
引っ越しを決断。

一週間入院させることにして、帰路に。

「なんだか私達、猫のお陰で人生が動く気がするね。」
そうかもしれない。でも猫だけじゃなくて、子供ができてからもそうだ。

自分では、どうにも進むことも選ぶことにも躊躇する、そんな時
目の前に現れ、出会ったモノが
大きな変化と動きをもたらしてくれる。



旅の道行き、ペダルをこいで進むキャラバン。


道連れは多いほうが良い。





(追記)
引っ越しの契約やら準備やらで、慌ただしい中
実家にやって来たその猫は一日三食エサをたいらげ
甘えては水を飲み、また甘えては飯を食い、徐々に肉がついてきた。
皮膚病のなのか、毛が無く禿げ上がった背中や腕が
撫でるたびにみるみる生え揃い汚かった体毛にも艶が出てきた。
生き物は不思議だ。
ご飯や水分だけでなく、別のエネルギーも必要なのだ。



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キクチコズエ

お久しぶり。
私も、猫のおかげで人生が動いた人の一人。

イッシーのステキな文章に、泣いた。
下の階で、おそらく大人しくしているであろう愛猫に、
ちょっかい出して来ようと思う。
by キクチコズエ (2009-09-05 00:16) 

muzuho

久しぶりだね!
そうですか、人生を動かしてもらってますか。
昔から、猫や狐は情念が強い動物と言われてて
恨みや怨念をもっていると信じられていたみたい。
その分、恩義も感じると思われていたんだって。
普段、気まぐれな風だけど
落ち込んでいる時や悲しんでいる時
急に近くに来てくれるよね。
いつも癒してもらってますよ。
by muzuho (2009-09-05 20:46) 

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