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ドリーム・マスター その1 [ドリーム・マスター]



窓のサッシを閉めると、部屋は昼間でも夜のように暗くなる。

しかし人工的な闇なので、のっぺりしていて動きの無い暗闇。

お気に入りのスタンドのスイッチを入れると
黄色い暖かな光が燈り、壁から天井にかけて
にゅっと影が伸びる。

よし、また今日も変わらず良い気持ちだ。
落ち着けて、懐かしくて、すこしうんざりするけど
嬉しい。

ベットに横になりスタンドの光を見つめながら
浮かんでくる取り留めの無いイメージの泡に身をまかせながら
それぞれのビジョンに匂いを感じる。

さて、そろそろいこう。
あの世界に。
誰も邪魔しない、すべてが叶う
あの場所に。

目をつぶり、浮かんでは消える色々なもの
思考や感情や感覚が
形をとどめておけない状態をゆるす。

きた。

すーっと引き上げられるような
または深いところに沈んでいくような

気がつくとそこにいる。
この場所だ。
知っている、慣れ親しんだ世界。

夢の中で覚めている
自分が夢を見ているとわかっている
自らの意思でここに来たと知っている


この世界で僕は何でも出来る。





高校生の時期、僕は不登校児だった時があった。

一年のうちの半分近く学校を休んでいた。
とにかく学校に行きたくなくて、始めのうちは外で時間をつぶしていた。
通学電車に乗って、そのまま終着駅まで乗り続け
見知らぬ街をふらふらと歩いていた。
それはとても楽しい時間だった。

徐々に下車する駅をずらしていき、そろそろ学校近くの駅に近づき始めた頃
途中下車の旅を止め、電車に乗って数駅で折り返し
そのまま家に帰るようになっていった。
共働きの両親が出かけた家に戻り
再びベットの中に。

そのうち出かけるふりもしなくなり
両親や同居していた祖父母に見つからぬよう
押入れの布団と布団の間に挟まり
眠るようになった。
時には壁際とベットの間を30センチほど離し
その間に挟まりこみ、上からふんわりとシーツをかけて隠して眠った。

とにかく眠った。
眠って眠って眠り続けた。

学校が休みに入るとさらに遠慮なく眠った。
夕方に眠り、目を覚ますと窓に薄明かりがさしている。
「ああ、朝か」と思い見ていると、どんどん暗くなっていく。
24時間眠って、翌日の夕方だったのだ。

より深い眠りのために部屋の窓のサッシを閉めた。
眠りはエスカレートしていき、時には丸二日眠り続けるときもあった。
目が覚めて時計の日付を見ると二日過ぎている。
まるで浦島太郎の気分である。

母親は心配して、病院に行かせようとした。
なんでもアフリカの方に蚊を媒介にした「眠り病」という病があるらしく
感染すると何日も眠り続けて、最期には死んでしまうらしい。
「ここは日本だから!」と拒んだ。

そのうち朝も昼も夜も無く、自由に眠れるようになってきた。
寝入りも早く、目をつぶって一分くらいで眠れるのだ。


そしてある時、不思議な体験をする。
夢の中で気がついたのだ。
「あ、いま俺眠っている。これは夢なんだ!」と。









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